「遺産相続弁護士 柿崎真一」第1話の感想

「遺産相続弁護士 柿崎真一」第1話をみました。

いくつか気になったところを書いてみます。

 

なお、実際はこうだ、などということも書きますが、ドラマは面白いのが一番です。ただでさえコメディ色が強いですし。

ドラマを見て相続問題とか弁護士に興味をもった人の参考にしてもらえれば幸いです。

 

遺言状を訂正すると無効か?

ドラマの冒頭、三上博史さんが墓地(元町なので外人墓地でしょうか)から遺言状をみつけます。

それを酒井若菜さんに渡すと、酒井若菜さんは名前が「水谷美貴」となっており、「貴」が間違っているということで、×をつけて「樹」に訂正してしまいます。

これをみて、三上博史さんは、遺言の「変造」だから、相続欠格になり、遺産を受け取れない、といいます。

 

三上博史さんも言っていた民法891条5号には、

「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」とあり、

民法では、これに該当すると、遺産を受け取れない、となっています。

このうち、「変造」というのは、遺言書の内容に加除訂正を加えることをいいます。

名前が誤字だから書き換えるのは、加除訂正していますので、「変造」にあたりそうです。

以上からすると、民法の条文からいえば、三上博史さんがいったように、民法891条5号に該当し、遺産は受け取れない、ということにもなりそうです。

 

ただ、良かれと思って誤字を正したくらいで、遺言書が無効となってしまうのもどうも納得しづらい点があります。

ちなみに、民法891条1号から4号にも相続欠格事由(相続人になれなかったり遺言を受け取れない事由)が書かれているのですが、こちらは、被相続人や相続人を殺害して刑に処せられた、など、極めて重い事情ばかりです。こういった事由と、誤字を正した程度のことが同じ結果となるというのも不釣り合いな気がします。

そこで、変造などの5号の行為については、単にこれらの行為を行ったというだけではなく、これら行為を行うに関し、「相続に関して不当な利益を目的とすること」があってはじめて相続欠格事由にあたる、との考えがあります(5号の破棄や隠匿については、判例もあります)。

不当な利益を目的とすることが必要だとすると、良かれと思って誤字を正した場合には、このような目的がなく、相続欠格事由にあたりません。

 

したがって、酒井若菜さんは遺産を受け取れる可能性があります。

ですので、実際にこのような相談があれば、「変造」だからといって、すぐにあきらめることはせず、「変造」には当たらない可能性があることを伝え、「変造」には当たらないことを認めてもらいましょう、とアドバイスするように思います。

 

6時間妻は無効か

奥菜恵さんは、婚姻届を提出して6時間後に夫である螢雪次朗さんを亡くします。

そして、遺産目当てで結婚したとか、朦朧とする意識の中で無理やり婚姻届を書かされたから結婚は無効だ、などと螢雪次朗さんの子である紫吹淳さんに言われてトラブルになります。

これに対して、三上博史さんは、螢雪次朗さんに結婚する意思があったことを証明しなければ、といって調査を行います。

 

婚姻意思とは

法律上、結婚が有効であるためには、単に婚姻届を提出する意思だけではなく、「社会観念上夫婦と認められる関係を設定しようとする意思」が必要といわれています。

社会通念上夫婦と認められる関係というのもなかなかわかりづらく、遺産目的の結婚だからただちに婚姻意思がないということでもないように思います(逆説的ですが、遺産目的であればなおのこと、妻は夫が亡くなるまで懸命に夫に尽くそうとする気もします)。

特に、奥菜恵さんは、螢雪次朗さんの生前、老人ホームに足しげく通って、入れ歯掃除までしてたとのことですので、婚姻意思がなかったということにはなりづらい気がします。

 

おそらく、紫吹淳さんの不満は、亡くなる直前に婚姻届を提出されたために、遺産を半分もとられた、という感覚のような気がします。

夫の財産を前妻が協力して形成していたのであれば、なおさら、子供たちの納得いかない感覚は強いように思います。これは、高齢で再婚する場合に、多かれ少なかれ生じる問題です。

この点については、現在、相続法の改正でも議論となっている問題で、婚姻期間の長短や夫の財産の形成の寄与によって、相続分を調整する仕組みが考えられています。

 

判断能力

婚姻意思とは別に、そもそも婚姻するだけの判断能力がない、という場合にも無効になります。高度の痴呆状態の場合などが典型例です。

紫吹淳さんが、「意識のない中で婚姻届を書かされた」とも言っていますが、もしそうであれば、婚姻は無効となります(婚姻届提出時点でも原則として判断能力は必要です)。

実際上、判断能力があったかどうかを確認する際には、まずは、死亡直前の夫の状況について、病院(カルテ)や老人ホーム(日誌)に確認することになると思います。

そして、臨終前で、意識がなかったとか、正常な判断能力がなかったという立証ができれば、婚姻が無効になる可能性がありえます。

 

なお、三上博史さんは裁判を嫌がっていましたが、婚姻が無効かどうかでトラブルになり、歩み寄りが出来ないのであれば、通常は裁判をして決着をつけることになります。

 

2億4000万円を手に入れられる?

ドラマの最後に、入れ歯の箱の奥にメッセージカードと貸金庫の鍵があり、2億40000万円を奥菜恵さんが手に入れて解決、ということになります。

 

いかがわしい2人組が3億円もの大金を下ろそうとしたら、銀行は止めるだろう、という点は置くとして、ここでのポイントは、奥菜恵さん名義の通帳に3億円が入っていた、ということだと思います。

これがもし、螢雪次朗さん名義の通帳だと、テレビや週刊誌のネタにまでなってることからすると、螢雪次朗さんが死亡していることを銀行も知り、預金口座は凍結されているはずです。

預金が凍結された場合、銀行が預金の払戻しに応じるには、遺言書や相続人全員の同意書などが必要になります。

そうすると、また、紫吹淳さんとのトラブルが再燃することになります。

ですので、3億円をすぐに引き出すためには、奥菜恵さん名義の通帳であったということが大事だと思います。

ドラマの筋的には、奥菜恵さんが螢雪次朗さんに資産運用を依頼したときに通帳を預けた、などということが考えられるでしょうか。

 

他にもいろいろあるのですが、とりあえず、以上気になったことを書きました。

本当は純粋にドラマの部分の感想も書きたかったのですが、法律的な話ばかりになってしまいました。